「老後必要なお金は3000万円」は本当なのか、専門家に聞いてみた

【画像】医療費のイメージ

老後に必要なお金は3000万円――。

思わず「え!?」と二度見してしまう金額ですが、これはフィディリティ退職・投資教育研究所が実施した、現役サラリーマン1万人を対象にしたアンケート調査(「フィデリティ退職・投資教育研究所レポート2016.5」掲載)の結果です。それによると、退職後には公的年金以外で平均2994万円必要になると、多くのサラリーマンが考えているのです。

皆さんは、定年を迎えた両親が毎月どのくらいのお金を使っているか、知っていますか? 「知らないし、何か聞くのもいやらしいし・・・」という人が、おそらくほとんどではないでしょうか。

【グラフ】世帯主が70歳以上の家計の支出内訳(2015年)

「家計調査」(2015年、総務省統計局)によると、世帯主が70歳以上(2人以上の世帯)の家計の支出は、23万9454円となっています。年換算でおよそ287万円の支出です。ここでは調査対象の持ち家率が93%となっているため、住居費は相当低く抑えられていますが、賃貸住宅に住んでいる人の場合はこのほかに賃料が発生します。不動産・住宅情報サイト「ホームズ」を見ると、2016年12月現在で、埼玉県所沢市の家賃相場(1LDK・2K・2DK)は、6万4300円、神奈川県藤沢市で5万6400円。藤沢市と仮定すると、年額約68万円が別途発生することになり、287万円にプラスして、合計約355万円の支出になります。

「老後になると、おカネを使わなくなる」という幻想

ここでは「家計調査」の結果にしたがって、持ち家ありとして話を進めることにしましょう。年間287万円の支出ですから、65歳〜85歳までの20年間では、合計5740万円の支出となります。(※日本の平均寿命は2015年で83.7歳ですが、計算の便宜上単純化しました)

それにしても、この「家計調査」の年代別支出を見て驚いたのは、老後の生活費が現役時代とそれほど変わらないことです。同調査によると、35〜44歳の食料費は年85.7万円、65歳以上では82.1万円。光熱・水道費は、35〜44歳が年25.8万円、65歳以上で27.5万円となっています。

【グラフ】世帯主が35〜44歳の家計の支出内訳(2015年)

私たちは「老後になると、使うおカネも減るはず」と思いがちですが、そうとは言い切れないことがわかります。マネージャーナリストの有山典子さんは、著書『老後のお金 備えの正解』(朝日新聞出版)のなかで「50代から60代になったからといって、食べる量が急に減るわけではありません。水道光熱費のような固定費がそう減ることはありません」と書いています。確かに、自分の親の60代を思い出しても、現役時代と相も変わらず、居酒屋でお酒をたっぷり飲んでいたものです。老後といっても、使うお金はそんなに変わらないと考えておいたほうがよさそうですね。

公的年金は2割程度減ることを想定しておく

一方、収入については、その大きな柱となるのが「公的年金」です。「平成26年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省)によると、2014年の年金受給平均は、夫が16万5450円(大卒)、妻(ずっと専業主婦だった場合)が5万4497円なので、2人合わせて月額約22万円(年額264万円)。ということは、65〜85歳までの収入は5280万円です。

しかし、親の世代と違って、私たちの世代が月額22万円もの年金をもらえるとは思えません。現在は現役世代2.3人で高齢者1人を支えており、これが2030年には1.8人で1人を支えねばならなくなることなどを考えて、私たちの世代は2割程度減額されると想定しておきます。つまり、受給額は月額約17.6万円となり、65〜85歳で4224万円ということになります。

支出5740万円−収入4224万円=1516万円。

老後を暮らすには、公的年金以外に1516万円が必要であることがわかります。冒頭で紹介した3000万円と比べると、半分ほどの金額です。

老後に必要なのは生活費だけではない

『「老後貧乏」はイヤ! 貯められない家計の治し方』の著者、家計再生コンサルタントの横山光昭さんに、この見積もりをチェックしてもらいましょう。

「寿命を男性80歳、女性85歳として試算すると、年金以外で不足する生活費の総額は、およそ、そのくらいの金額になるでしょう。これに60〜65歳の年金受給までの空白の5年間の目減り、年金受給開始の引き上げ、医療費支出の増加などを考えると『老後に3000万円が必要』は、現実的な数字といえます」

なるほど。生活費以外でも、いろいろなおカネが必要になるわけですね。

「ただ、この金額には『退職金』が一切考慮されていません。それだけに、あまり過度に、3000万円という金額に反応しないほうがよいと思います」(横山さん)

「就労条件総合調査」(厚生労働省)によると、定年退職金額(大卒)は、2003年の2499万円から2013年の1941万円へと、この10年で558万円も減っています。とはいえ、3000万円−1941万円=1059万円で、約1000万円あれば老後を生きられる算段は立ちそうです。

老後必要な資金をあいまいにしておくと不安が募る

マネージャーナリストの有山さんは『老後のお金 備えの正解』(前出)のなかで、老後資金を計算する上で、旅行費用や住宅リフォーム費用などを「特別費」として計上しています。

有山さんの考え方に納得。私の両親は、年末にバス旅行をするのを楽しみにしていたなあ。自分も老後を迎えたら、奥さんと旅行ぐらいは行きたい。そうした現実的な金額を加えることで、より具体的な老後資金が見えてくる気がします。仮に、特別費を1000万円と見積もったとすると、老後のために必要なおカネは約4000万円。退職金(1941万円)を引けば、準備しておくべきは約2000万円ということになります。

確かに、1000万円必要、2000万円必要、という具体的な数字がわかれば、あとは、その目標に近づくための戦略を立てるだけです。たとえ、退職金を平均の半分(970万円)しかもらえないのだとしても、それなら2000万円、3000万円を貯めればいいんだと、前向きな気持ちにもなれます。

皆さんも、家族が老後生きていくのに必要な資金を、いまのうちにしっかり把握しておくことをおすすめします。

(文・永峰英太郎)

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