「退職金は10年で500万円減、4社に1社は退職金ゼロ」って知ってますか?

【画像】お金に囲まれた道を歩く高齢の夫婦の後ろ姿

退職金が、ここ10年で500万円以上も減っていることをご存知でしょうか。

「就労条件総合調査」(厚生労働省)によると、定年退職金の平均額(大学卒の管理・事務・技術職)は、2003年で2499万円だったのが、2008年は2280万円、2013年には1941万円と、大幅な減少傾向にあります。

退職金の減少は、企業の規模を問わずに起こっています。「就労条件総合調査」(2013年)を見ると、1000人以上の企業規模では、退職金の平均額が2290万円なのに対し、300〜999人の企業では1769万円、100〜299人では1250万円。10年さかのぼった2003年はそれぞれ、2779万円、2329万円、1795万円でした。100〜299人規模の企業でも10年間で500万円以上減っていて、そもそも大企業に比べて低かった退職金がさらに低くなったという点で、老後の生活に与える影響はより深刻になってきたと言えます。

【グラフ】企業規模別に見た平均退職給付金の推移

また、同じ企業規模であれば、退職金の減少の幅は同じだろうと思ってはいけません。

従業員1000人以上、資本金5億円以上の企業を対象にした「退職金、年金及び定年制事情調査」(2015年、中央労働委員会)によると、大学卒男性の平均退職金額(定年、満勤勤続)は2303万円。業種別で見てみると、トップ3は「海運・倉庫」が3899万円、「保険」が3315万円、「窯業・土石製品」が2936万円と、平均額に比べてかなり高め。一方、ワースト3は「銀行」で1178万円、「食品・たばこ」が1529万円、「機械」が1539万円となっています。

【グラフ】産業別平均退職金額(2015年、大卒男性、満勤勤続)

この統計は男性のみを対象としていて、なおかつサンプル数も少ないため、これをもってすべてを結論づけるのは難しいのですが、業種のあいだに2700万円超もの差が生じるケースもあるというのは注目すべきことです。

いまや「退職金ゼロ」の会社が4分の1を占める

世代間格差、業界間格差どころか、そもそも「退職金制度なし」という企業も増えています。前出の「就労条件総合調査」によると、2003年に13.3%だったのが、2013年には24.5%へと、全企業の4分の1を占めるまでになりました。

退職金がこれほどの勢いで減っていることをいま知った方々のなかには、「退職金は労働基準法に何か定めがあって守られてるんじゃないの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。実際のところ、どうなんでしょうか。『退職金制度の教科書』(労務行政)の著者である秋山輝之さんはこう解説します。

「労働基準法(89条)では、退職金については、あくまでも定めをする場合において『適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項』を明示するよう、規定しているにすぎません。退職金制度は、あくまでも企業の任意で導入・整備されるものなのです」

なるほど。でも、だったらどうして企業は、あえて莫大なお金のかかる退職金制度を導入するのでしょう?

「その理由は、企業によってさまざまですが、多くの企業に共通するのは『優秀な従業員を採用するため』『勤続を奨励するため』『退職後の生計を支えるため』『税務的・財務的なメリットを活用するため』という4つの目的のためなんです。ただし、時代の変化に伴って、その役割は大きく変化しつつあります」(秋山さん)

退職金の算定方法はこの15年で様変わり

秋山さんは、企業が退職金制度を導入する4つの目的のうち、「退職後の生計を支える」面について、特に大きな変化が出てきていると指摘します。

「公的年金制度が不安視されるなか、確定拠出年金などを受け皿に用意された老後保障の制度を、企業の力で充実させることが重要になってきています。そこで各企業はいま、退職金の原資を抑えつつ、年金制度の整備に注力しています。その一方で、活躍を目指す社員に対し、魅力的な退職時のインセンティブを用意することにも力を入れてきました。その一つが、退職金の算定方法として導入が進む『ポイント制』です」

退職金の算定方法はかつて、退職時の給与に、勤続年数や年齢、退職事由などで決まる「支給率」を乗じた額を退職金とする「最終給与連動方式」が基本でした。しかし、現在は、給与と切り離して、「等級」「勤続年数」「評価・成績」「役職」「職掌」「年齢」などから1年ごとに社員にポイントを付与し、その総計にもとづいて退職金を支給する「ポイント制」が、大企業では主流になりつつあります。

【グラフ】退職一時金算定方式(導入社数)の推移

「退職金、年金及び定年制事情調査」(中央労働委員会)によると、退職金の算定方法としてポイント制を導入している大企業は、2001年の時点では24.5%に過ぎず、52.2%が最終給与連動方式を採用していました。それが、2015年にはポイント制が65.7%、最終給与連動方式は13.7%と、すっかり逆転してしまったのです。

ポイント制は、実績を上げた社員には有利ですが、あまり活躍できなかった社員にとっては、退職金が低く抑えられてしまう、あまり歓迎されない算定方法とも言えます。一方、優秀な社員であっても、退職金の原資そのものが抑えられているなかでは、たとえポイント制が導入されても、10年前より退職金が増えるような状況はそう期待できません。

退職金は「普段の生活費として使う」が増えている

社会の状況や制度は変わっても、老後を生き抜く資金を確保しようと考えるとき、頼りにしているのはやっぱり退職金です。フィディリティ退職・投資教育研究所がサラリーマン1万人を対象に行ったアンケート調査によると、公的年金以外で老後に必要な資金は平均3078万円。退職金なしにこれだけの金額を準備するのは、至難のワザと言わざるを得ません。

実際、同調査で「退職金の使用目的」について聞いたところ、「退職後の生活費」(52.2%)が、2位の「ローンや負債の返済」(20.8%)を大きく引き離し、ダントツの1位になっています。

この「退職後の生活費」について、アンケート調査はさらに「普段の生活費として使う」「将来の不足時に充当する」という設問に分かれています。「将来の不足時に充当する」が43.3%でトップですが、「普段の生活費として使う」も37.4%でそれに続き、なおかつ年間所得の少ない層ほどその割合が高くなっています。500〜800万円未満は35.9%、300〜500万円未満は44.2%、300万円未満では60.5%が、退職金を普段の生活費に充てると答えているのです。そして、この傾向は2011年に比べて、2015年のほうがより顕著になっています。

私の両親のケースで言えば、退職金は「将来の不足時に充当する」という考えをもって、老後を過ごしていたようです。母亡き後、そのお金の一部は、父の老人ホーム入居の頭金となりました。そういう意味では、二人は老後の準備に成功したと言えるのかもしれません。

定年まで働くだけでなく、活躍することが求められている

さて、私たちは、親世代と同じレベルまでは期待できないにしても、ある程度の退職金をもらって普段の生活費に使ったり、将来の不足時に充てたりできるのでしょうか。それとも現在の減少傾向に歯止めがかからず、ついには「退職金ゼロ」の時代が来てしまうのでしょうか。秋山さんはそのような見方に否定的です。

「魅力ある退職金制度を用意することは、社員の活躍に必ず寄与するものです。才能あふれる人材を確保するため、退職金制度がなくなることはないと思います。その一方で、退職金の算定方法の主流となっているポイント制は、その企業の人材マネジメントポリシーや企業風土とより密接に結びついた、よりオリジナリティあふれる設計に発展していくことが予想されます」

ポイント制を導入する企業の増加は、定年まで働きさえすれば十分な退職金がもらえた時代の終焉をはっきり告げています。ゆとりある老後を送るためには、いま以上に会社で活躍できるように努力し、その努力に見合ったポイントを獲得していくのが王道、ということになるでしょう。その上で、退職金の目減り分をほかの方法で補っていくことに、目を向ける必要がありそうです。

(文・永峰英太郎)

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