公的年金頼みでは老後を生きていけないこれだけの理由

【画像】国民年金保険料のイメージ

皆さんは、老後受給する「公的年金」に、どのくらい期待していますか?

厚生労働省「社会保障における公的・私的サービスに関する意識等調査報告書」(2009年)によると、老後の生計を支える手段として、公的年金を「1番目に頼りにしている」とした割合は、65歳以上で76.9%なのに対し、40代は50.6%、30代は40.4%、20代は37.8%。若い世代ほど、年金を当てにしていないことがわかります。かくいう私(40代)も、年金については「あまり期待していない」というのがホンネです。

【グラフ】老後の生計を支える手段として1番目に頼りにするもの

年金制度にくわしい社会保険労務士の北村庄吾さんは「今後、公的年金の受給額が先細りすることは間違いありません」と、断言します。

いま年金受給額はどのくらいなのか

ここで少し、公的年金についてオサライを――。

公的年金制度は「国民年金」と「厚生年金」による「2階建て」の構造になっていて、働き方によって加入する制度が異なります。国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての国民が加入する制度。毎月支払う保険料は1万6260円(2016年度)です。一方の厚生年金は、会社員や公務員が加入する制度で、毎月の保険料は勤務先と折半して支払います。自営業者は基本的に国民年金のみ加入し、会社員や公務員は国民年金と厚生年金の両方に加入することになります。さらに、企業によっては、厚生年金基金などの「企業年金」を設けているケースもあります。

さて、いま年金を受給している人たちは、いったいどのくらい受け取っているのでしょうか。卑近な例で恐縮ですが、私の父は大学を卒業してすぐにサラリーマンになり、定年まで勤め上げ、現在は年金生活を送っています。国民年金と厚生年金で月13万4000円、企業年金が月9万8000円、合計23万2000円を毎月受け取っています。母親はすでに他界しましたが、生前は毎月5万円(国民年金のみ)を受け取っていました。引退してもなお、大学院修士課程を修了した男性の初任給(23万1700円、2016年)とほぼ同額をもらえるのだから、すごいことですよね。

なお、厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2015年)によると、平均年金受給額は、会社員が月14万4886円(企業年金は含まず)、自営業者が月5万4414円となっています。

「マクロ経済スライド」の強化で年金支給額は減る

年金の受給額はこれから先細りしていくと言われています。そして、その兆候はすでに現れ始めているようです。

2015年、現役人口の減少や平均余命の伸びに合わせて年金の給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」の仕組みが初めて稼働しました。2016年12月には、このマクロ経済スライドを強化する国民年金法改正案が成立予定です。『制度を知って賢く生きる 人生を左右するお金のカベ』(日本経済新聞社)の著者で、社会保険労務士の北村庄吾さんは、「それらの狙いは、ずばり年金給付額の削減なんです」と指摘します。

「公的年金制度はもともと、物価や賃金の上昇分を反映して支給額を増やす仕組みになっていましたが、2004年の制度改革によって、支給額の伸びを物価や賃金の上昇分よりも抑える仕組みが導入されました。これがマクロ経済スライドです。この仕組みはこれまで、物価と賃金がともに下がる局面では適用されず、物価が上がっても賃金が下がる局面では年金支給額を据え置くルールでした。しかし、新たな改正案では、賃金が下がる局面で年金支給額を減らすことができることになっているのです」

それにしても、なぜ、そこまでして支給額を減らす必要があるのでしょう。その理由は、現在の年金の仕組みにあるようです。

「現在の年金制度は、世代間扶養の仕組みを取っています。つまり、現役世代が保険料を納め、それを年金として高齢者に支給して老後の生活を支えているわけです。1960年代は、11.2人の現役世代が高齢者1人を支えてきました。いまは何人で高齢者1人を支えていると思いますか?」(北村さん)

少子高齢化が進んでいるから、5人くらいでしょうか。

「いえいえ、2.3人(2015年)で高齢者1人を支えているんです。2030年には、1.8人で1人を支えることになります。世代間扶養の仕組みは、もう成り立たないんですよ。国はこの仕組みを存続させるために、これまで『保険料を上げる』『支給開始を遅らせる』ことで対応してきましたが、結局解決できませんでした。そこでついに、支給額にメスを入れることにしたのです」(北村さん)

年金受給額はどこまで下がるのか

現在(2014年度)、年金を受給している世帯には、現役男性の平均賃金の62.7%が支払われています。厚生労働省のモデル世帯(夫が40年間会社員で平均月収34.8万円、妻は専業主婦)の場合、もらえる年金は月額21.8万円です。ちなみに、この「もらえる年金額が現役世代の平均手取り収入のどれくらいに当たるか」を、「所得代替率」と呼びます。

国は5年ごとに公的年金の定期健康診断(財政検証)を行っています。直近の財政検証(2014年)では、経済や人口の状況をA〜Hまでの8ケースに分けて設定し、マクロ経済スライドなどにより年金財政が健全に保たれるかを検証しています。たとえば、経済や人口の状況が「中成長」「中位」とされるケースEでは、所得代替率は2030年に56.5%、2043年には50.6%まで下がり、マクロ経済スライドによる給付額引き下げの必要はなくなるとされています。

このケースEでは、2043年度にモデル世帯がもらえる年金は24.4万円と現在よりも増えることになっています。ただしそれは、物価上昇率1.2%、賃金上昇率1.3%という経済状況のもとで、現役男子の手取り収入が48.2万円に伸びると仮定した場合の話。2050年には、手取り収入がさらに52.7万円まで伸びる計算です。「そんなバカな」と思いますよね。実際、収入が伸びなければ、所得代替率だけが50%近くまで引き下げられることになり、つまりは年金支給額が2〜3割目減りすることになります。

年金受給年齢のさらなる引き下げに現実味

皆さんのなかには、「年金ゼロ」を覚悟している人も少なくないかもしれません。確かにネガティブな要素はいくつも見え隠れしています。すでに述べたような年金制度改革による支給額の引き下げのほか、高齢化のピークに備えるための年金積立金を取り崩して給付に当てている現状もあります。

また、積立金を管理して運用する「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の運用不振のニュースも大きく取り上げられています。とはいえ、2015年度に5兆円を超える損失を出し、2016年第1四半期でさらに5兆円損失と報じられたGPIFが、2016年第2四半期では2兆円超の黒字を出したとの報道もあります。第2次安倍内閣の発足した2012年末以降では20兆円以上の運用益を出しているとも言われ、足もとの情報だけで評価するのは難しそうです。

少なくとも、支給開始年齢の引き上げは現実味がありそうです。民主党政権時代に厚生年金の支給開始年齢を68歳にまで引き上げる案が出され(その後撤回)たり、選択制で75歳まで支給開始年齢を引き上げる案が厚生労働省から出されたり、水面下での駆け引きがくり広げられていることは間違いないでしょう。

支給額の引き下げに加えて、支給開始年齢の引き上げ。年金ゼロ時代が来るかどうかはともかくとして、先行き不透明なこの公的年金に頼って老後を生きていくという発想は、いくらなんでも無防備すぎるかもしれません。

(文・永峰英太郎)

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